今回も、アメリカの代表的パッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)の今年上半期の記事から、日本在住の読者に興味深いと思われる記事をピックアップしてご紹介する。
花王がアメリカで初めて植物性のシャンプー・コンディショナー・ハンドウォッシュを新開発の軟包装ボトルに入れて発売(PS誌:6月1日発行)
なんといっても、今アメリカで高い評価を得ている花王の新製品が注目だ。50周年を迎える世界最大の環境保護イベント「Earth Day」が、今年はコロナ禍の中4月22日にオンラインで開催された。
花王はこの日に照準を合わせ、初めてアメリカ市場をターゲットとする植物性素材の新製品「MyKirei」のシャンプー、コンディショナー、ハンドソープを、同社が独自開発した新容器エア・イン・フィルム・ボトル(AFB)に詰めて新発売した。
販売ルートはミレニアル世代など環境意識の高い若者層をターゲットにしており、Amazonのネット通販サイトで販売される。
花王は、消費者が求める持続可能な暮らしを「Kirei Lifestyle」と呼び、それを実現するためのESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」をまとめているが、その一環として世界最大市場であるアメリカで先行してこの製品を発売した。狙い通り、既にアメリカでは環境意識と美意識の高いミレニアル世代やZ世代の消費者や、メディアの間で大きな反響を呼んでいる。
アメリカでは、パーソナルケアやホームケア製品、衣料洗剤のパッケージは、重量感のあるプラスチックボトルが市場で圧倒的な存在感を放っている。ただ、近年のプラスチック廃棄問題から、アメリカでも省資源化、省エネ化、そしてパッケージのリサイクルが叫ばれている。
こうしたアメリカ社会の動きや消費者の購入行動の変化を受け、アメリカの消費財メーカーはいずれもパッケージのプラスチック使用量の削減計画を公表し、その上で有用なプラスチックを1回限りで捨てるのではなく、リサイクル・リユースするという方向に向かい始めている。
そういった意味で今回の花王のエア・イン・フィルム・ボトル(AFB)は、アメリカ社会が取り組もうとしているプラスチック廃棄問題のソリューションとして一石を投じ、あるべき方向を指し示している。
容器のプラスチック使用量を50%削減し 、使用済みのパッケージは米TerraCycle社と連携して回収。再生材料は教育玩具などに再生し、地域施設に寄贈する仕組みをつくった。中身も最後の一滴まで使い切ることができる設計がされた。商品設計の最初の段階からESGの視点を採り入れた「よきモノづくり」を目指している花王らしいアプローチだ。
リサイクルがなかなか進まないアメリカ(日本ではプラスチックリサイクルの最優等生であるPETボトルも、アメリカでは使用済みPETボトルの回収率が29%、再資源化率は21%にとどまり、海洋汚染の代表格になっている)の人々に美しいライフスタイルを提案している。アメリカのパッケージの風景が変わるゲームチェンジャーの役割を、この新容器が果たすことを期待したい。
MyKireiのパッケージは、花生が開発したエア ・イン・フィルムボトル(AFB)技術を初めて実用化したものだ。パッケージの素材は花王の「ラクラクecoパック」など、同社の詰替えパウチの軟包装フィルムと同じものを使っている。
パウチの周囲に設けた回路に空気を挿入することで、内容物が減っても安定して自立する設計は、アメリカ人が好むリジッドなボトルと同じ感覚で使うことができる。従来のポンプ式のボトルと比較して、プラスチックの使用量を約50%削減した。
ポンプのリユースを消費者には促しており、ネットでは専用の付け替えパックも併せて販売している。AFBは従来のボトルと異なり、中身を最後の一滴まで使い切ることができる。今後花生は、アメリカ市場でKireiライフスタイルを楽しむことがきる幅広い製品を提供していく計画だ。
当初は日本の伝統的なパッケージである「風呂敷」を提供する予定だったが、マスク不足が深刻化したため急遽同じ生地を使い、洗って何度もリユースできるフェイスマスクに仕立て直して配られた。
新製品発表の機会を捉えPS誌が花王を単独取材
一問一答でご覧いただきたい。
【PS誌】MyKireiは、美しさと科学の融合とコメントされています。パッケージにはこの二つの要素がどのように表現されていますか?
【花王】大量消費、大量生産の現代社会で、パッケージは地球環境への負荷を減らすことが求められています。リサイクルすることは大前提ですが、その前にメーカーはプラスチックの使用量を減らすことが求められています。AFBは、プラスチック廃棄物もCO2の排出量も削減します。
また、パッケージの中に中身が残ることがなく、使いきることができるような設計も採り入れました。この2つを同時に実現することは、従来のボトルでは不可能です。花王は革新的なフィルム型パッケージ(AFB)を考案し、この課題に挑戦しました。
フィルム型のパッケージをボトルのように安定して自立させるにはどうすればよいか。余計な付加物を使わずに低コストでこれを達成するために、私たちは空気に着目しました。フィルムと空気を用いたパッケージコンセプトです。中身を最後まで使いきるにも、柔軟なプラスチックフィルムは適しています。
パウチの内側に内袋を設けることにより、空気を置換することなく、中身が減っていくに従いフィルムが自然に収縮するというメカニズムを採用しました。これは、内袋の中に外から水や空気などを取り込まないことを意味しており、衛生面や安全性を配慮したパッケージでもあります。
さらに、AFBには消費者の使い勝手の向上、製造現場の生産効率改善の視点から、プラスチック使用量は若干増えますが、ネジ部をつけたスパウトを装着しました。パッケージラインでネック搬送が可能になるので、リジッドボトルと同じ高速充填性が可能になりました。これにポンプディスペンサーをつけて消費者の使い勝手も一段と向上しました。
パッケージの美しさについてお話しましょう。AFBの特長である空気回路を意匠性の改善に活かし、消費者に新鮮な驚きと未来感を提案しています。AFBは3重構造になっています。印刷層と分けることにより、奥行き感のあるデザインとなり、リサイクル性も改良できました。
消費者は残量が少なくなるに従って内袋が収縮していく様子がビジュアルでわかりますから、その意味でも大変ユニークなパッケージです。
【PS誌】パッケージの開発期間は?
【花王】2013年にコンセプトを考案、開発に着手しました。 2014年に最初のプロトタイプを作製し、商品化までに約6~7年を要しました。
【PS誌】このパッケージの開発で、最も苦労した点は?
【花王】フィルムと空気を利用して強度を持たせることにしたのですが、フィルムの接着強度、ヒートシール強度を維持して、空気回路をどのように形成していくか。また、容器の安定した自立性を実現する回路設計などが最も苦労した点です。容器に求められる物性強度を確保しながら、空気回路の空気が抜けない設計にも苦労しました。当然ながらパッケージの商業生産性も重要要素でした。
【PS誌】そうした課題をどのように解決されましたか?
【花王】当社がこれまで培ってきたフィルム型パッケージの設計技術と生産技術をベースに試作を重ね、トライ&エラーを繰り返しながらパッケージを創りこみました。MyKireiの最初のシリーズは、シャンプー、コンディショナーとハンドソープです。製品は全米のAmazonのネット通販で購入できます。
ライバル企業の花王とライオンが連携し「ジャパン・モデル」の確立を目指す
9月10日に花王は再び、環境問題に挑戦するメッセージを発信した。
花王とライオンというライバル企業が洗剤などの詰め替え容器のリサイクルで異例のタッグを組む。両社のトップが、使用済み容器回収の仕組み作りやリサイクル技術の開発で連携すると発表したのだ。
国内の詰め替え品の普及率は8割と世界に類を見ないほど高いが、リサイクルは実現できていない。普段は競合する2社が互いの技術を持ち寄り「ジャパン・モデル」の確立を目指す。
「徹底的にプラスチック使用量を削減してきたが、大規模なリサイクルにはつながっていない。リサイクルができれば循環型社会の構築に結びつく」。花王の沢田道隆社長は、こう強調する。
これまで両社は「リデュース」に力を入れてきた。プラ使用量が本体容器の2~3割で済む詰め替え容器は典型例だ。日本石鹸洗剤工業会によれば、1998年に28%だった詰め替え比率は18年に79%まで高まった。
しかし、洗剤などの液体製品を、漏れも破損も起こさず使い終わるまで中身をしっかり保護する機能を保つためには、ポリエチレンやナイロンなどを組み合わせた強靭な複合包装材料を使用する必要がある。しかしこれは、使い終わった後のリサイクルが難しい。現状では他のプラ製品と一緒に廃棄され、焼却される場合が多い。
花王とライオンは使用済みパッケージの回収の仕組みづくりから、リサイクルの技術開発まで幅広く協業する。まずは両社で技術者を中心に40名ほどの組織を作り、年内をめどに自治体と連携して、使用済み詰め替え容器の回収の実証試験を始める。
複合パウチの分離手法やリサイクルが容易な単一素材のパウチの開発を進め、2025年までに使用済みパウチから新しいパウチをつくる「水平リサイクル」の実用化を目指す。
花王とライオンがここまで本格的に手を組むのは珍しい。ライオンの掬川正純社長は業界団体の日本石鹸洗剤工業会の会長を務め、海洋プラごみ削減を目指す団体「CLOMA」の会長を沢田社長が務めるなど日常的な関わりはある。
ただ「会社を超えた連携の必要性を訴えてきたが、実動が伴っていなかった」(掬川社長)のが実情だ。「掛け声はあるが、実行に移すには至っていない」(沢田社長)状況だった。今後は両社に続く連携企業を増やしていくことにも合意している。
スーパーなどの購買データを収集する日経POS情報によれば、ハンドソープの詰め替え用の販売シェアは2社合わせて7割に達し、衣料用洗剤や食器用洗剤でも6割に上るという。「競合同士だが、ESG(環境・社会・企業統治)の視点では協業関係」(沢田社長)との立場で、互いの技術の共有化を進める。
花王やライオンが主力とする洗剤など日用品のプラスチック使用量は約8万トンで、国内の全プラスチック使用量の100分の1程度にすぎない。それでも「消費者に身近な商品だからこそ、ライフスタイルを見直す契機になる」(掬川社長)と期待を込める。
詰め替えパウチがこれほど普及している国は日本以外にない。洗剤などの硬質容器の水平リサイクルは海外でも始まったばかりで「業界標準」というべき手法はまだ固まっていない。沢田社長は「ジャパン・モデルとして、世界に先駆けて実現したい」と意気込む。
この枠組みに参加する国内企業が増えれば、日本発のプラスチック廃棄物削減、リサイクルモデルとして世界に広まる可能性がある。今後の日本企業の発信力に期待したい。(森 泰正記)
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