「スタンディングパウチ」について考えてみる(前編)その歴史とアメリカでの発展
はじめに
金属缶、プラスチック容器、紙器、ガラス瓶といった硬質容器が圧倒的な存在感を示していた米国のパッケージング市場で軟包装が成長する契機となったのは、米小売最大手のウォルマートが2009年に発表した「Sustainability Index *1」だ。
(*1:調達、製造、輸送から販売、顧客の使用、使用の終了まで、製品のライフサイクル全体で情報を収集、定量的に分析し、環境負荷の少ない製品やパッケージを優先的に調達する取組み。ウォルマートはこのプログラムに参加しているサプライヤーから、米国の店舗や会員制クラブで販売されている商品の70%を購入していると言われている。)
これは同社が購入するパッケージの基準を定量化したしたものとして知られているが、これ以降、化石資源や水資源の消費量が少なく、廃棄物の発生抑制や輸送コスト削減にも有効な軟包装が、米国でも急速に普及していった。今では、米国のラミネート軟包装の市場規模は2兆円近傍となった。
軟包装加工設備、充填・包装機械、印刷メーカーがお互いに競い合い、IoT/AI技術を駆使したパッケージングのスマート化・デジタル化や、充填・包装・検査・ケーシングラインの自動化など、軟包装のイノベーションを急速に進めていった。
米国のパッケージの需要構造を劇的に変化させつつある「軟包装カテゴリー」の中でも、特に「スタンディングパウチ」と呼ばれる包装形態の伸びが鮮明だ。スタンディングパウチとは、その名の通り自立性のある軟包装袋やパウチのことを指しており、パッケージの横や底に折り込みの「マチ」がついている。マチがあるので、内容物を充填した際には立体的になり、自立した状態で陳列することができる。
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また、商品棚で際立つカラフルな印刷や、鮮やかなグラフィックスでパッケージを飾ることもできる。最近では底を平底にして製袋し、リジッドな紙器や缶、プラスチック容器と同じように、安定した自立性をもつスタンディングパウチも登場している。
今回は米国のパッケージで最も高い成長率を続けているこのスタンディングパウチに焦点を当てて、その歴史、現状と課題を2回に分けてご紹介する。
スタンディングパウチは日本で初めて実用化された
これまでも本稿では、歯磨きのラミネートチューブや、ベビーフードのチアーパックなど、世界で広く利用されている日本発のパッケージ技術を紹介してきたが、実はスタンディングパウチが本格的に商業化されたのも日本が世界で初めてだ。
1966年に藤森工業がフランス企業から技術導入した包装形態で、日本国内では1970年代から80年代にかけて、食品からトイレタリー製品をはじめ幅広い分野で着実に浸透していった。
この包装形態の普及に伴い、スタンディングパウチも改良が進み、持ちやすさを追求した形状のパウチ、注ぎ易い抽出口やスパウトがついたパウチ、レトルト殺菌にも耐えられる高バリアパウチ、視認性のある透明パウチなど、消費者の利便性を考慮した機能が次々と加えられた。
1990年代に入ると、コンビニエンスストアの台頭、核家族化の進行で生活様式が一変し、コンパクトで意匠性を凝らしたスタンディングパウチが注目を浴び一気に市場が拡がった。また石油危機が契機となり、資源を持たない日本で化石資源の保全や環境保護の動きが高まり、シャンプー、コンディショナー、衣料、台所洗剤をはじめとしたパーソナルケアやホームケア製品のプラスチック容器を代替する省資源包装の切り札として、詰替え用のスタンディングパウチが急速に普及した。
更に日本の優れたスタンディングパウチの製袋技術に目を付けた欧米のパッケージング企業が、日本製の製袋機・充填機をこぞって導入し、海外でもスタンディングパウチが徐々に拡がりをみせていった。
スタンディングパウチの種類
それでは、主要なスタンディングパウチの形態を見てみよう。基本は軟包装のどの部分にガゼット、即ち「マチ」を設けるかで特許が成立している。
元々は、このようにパウチの底にガゼット部を設けたスタンディングパウチが主流であった。
この包装形態を考案したLouis Doyen氏に因んで、当初は「Doyen pouch」と呼ばれていたが、同氏が設立した仏Thimonnier社が「Doypack」として商標登録した。現在ではDoypackの形態が様々に変化、発展を遂げ、スタンディンパウチが一般呼称として広く使われている。
上の画像は代表的なDoypack。これに易開封・再封止ができるジッパーやキャップ+スパウト、視認性の高い透明窓、易カット性、保香性、ガスバリア機能など、様々な機能を付加したスタンディングパウチが登場している。
機能性ゼリーやベビーフードなど持ち運びに便利な細川洋行のチアーパック。
上下にガゼット部を設けて、易開封機能をつけたAmcor社の「Push Pop」。
世界的製袋機メーカートタニ技研の製袋機を使用した「Box Pouch」。袋の底を平底にして、側面に広い「マチ」を設けて、大容量の製品を包装できるようにした。
これらのように、ガゼットの位置を上下や両サイドに設けたこれらのスタンディングパウチが基本形となり、現在は様々に工夫を凝らしたスタンディングパウチが食品、飲料、日用品、その他の用途に供給されている。
スタンディンパウチの採用は世界中に拡がっている
実際に採用されている例をご紹介する。世界軟包装会議で紹介された製品の数々だ。
Plum Organic社のベビーフード。キャップが大きいのは赤ちゃんの誤飲防止のため。
Pepperidge Farm社のクラッカーチップ。Sonoco社の再粘着テープ”Seal Tab”を使い、クラッカーが吸湿するのを防いでいる。
Tree Top社のアップルソース。ベビーフードだけでなく成人向けや療養食にも用途が拡大。2017年末には、バリア層をアルミ箔から透明蒸着PETに切替えて視認性を確保(合成保存料や砂糖無添加で腐敗しやすくなったがパウチを透明にして、消費者に信頼性をアピール)した。
AstraPouch社、ディスペンサー付ワインパウチ。
Bonfire社、ディスペンサー付ワインパウチ。
Conagra社Orvilleの「Pop Up Bowl(レンジで加熱調理するポップコーンパウチ)」。2012度の米軟包装協会の最優秀賞を受賞。Amcorの「Push Pop」パウチが採用されている。
Campbell社のレンジ加熱可能な調理済食品。レトルト仕様、スチームベント機構あり。湯煎すれば、災害時や野外でも食器無しで食べられる。2016年度米軟包装協会の最優秀賞を受賞。コンバーターはBemis、バリア層は凸版印刷のレトルト仕様の透明ハイバリアフィルムが使用されている。また、直線カット性に優れる二軸延伸ナイロンフィルムも使用されている。
Walmartのシュレッドチーズ「Great Value」。保存性を考慮した再封止ジッパー付き。
Duke’s社のマヨネーズの異形パウチ。キャップは便利なフリップ・トップ式。
Daisy社のサワークリーム(逆スタンドパウチ)。逆流防止弁付き。片手で操作できる。
Molson Coors社の缶ビール用の12 Pack Coolerバッグ。2019年度米軟包装協会の最優秀賞を受賞。そのまま冷蔵庫やクーラーボックスで缶ビールを冷やせる大容量のリユース可能なスタンディングパウチ。コンバーターはBemis社、袋はトタニ技研の「Box Pouch」。「Box Pouch」は、コンバーターの2年連続(2018年、2019年)の再優秀賞獲得に貢献した。
Wells Frozen社の「Bunny Snacks」 Box Pouch, 6-Treats。2018年度米軟包装協会の最優秀賞を受賞した、氷菓の大容量スタンディングパウチ。コンバーターはPlastic、Packaging Technologies社。出光ユニテック社の機能性ジッパー「Pocket Zip」テープが採用されている。
おわりに
このように、米国の消費財企業は需要構造の変化を自らのビジネスチャンスと捉え、リジッドな容器から軟包装への転換を積極的に進めている。次回は、2019年の世界軟包装会議から、プラスチック廃棄の削減、リサイクル性の改良が進む米国のスタンディングパウチの実例をご紹介する。(森 泰正記)
▼後編はこちら
「スタンディングパウチ」について考えてみる(後編)環境負荷削減への挑戦
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