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ついに日本でも「LOOP」プロジェクトが始まる——テラサイクルと消費財メーカーが挑む、ゴミゼロ社会

はじめに

アルゼンチン在住の奥川駿平ライターのレポートは、日ごろ目にする機会のない南米アルゼンチンのパッケージング事情を知ることが興味深かった。

「キルメス・ビール」がアルゼンチンのシンボルになった理由

日本では、料飲店での提供を除くと「缶」ビールが圧倒的多数を占めているが、アルゼンチンでは一種のデポジット制のおかげもあり「瓶」ビールが好まれているようだ。

日本でもビール瓶は、今でもリターナブルでメーカーが回収、洗浄して、何度でもリユースされている。ライフサイクル分析でもリサイクルに比べて環境負荷が小さいので、リユースは見直されてしかるべきパッケージング手法だ。かつては日本にも、ビール以外に一升瓶や醤油瓶、牛乳瓶などリターナブルな販売形態があり、ガラス瓶はリユースされていた。

2020年秋から、リユースパッケージの復活に向けた壮大な実験が始まる。

テラサイクルが提案する、新たなパッケージのリユースビジネスモデル

2019年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、テラサイクル社の創立者兼 CEO のTom Szaky氏が、世界を代表する消費財メーカーや環境保護団体の代表と一緒に登壇し、リユース可能な耐久性のあるパッケージによる循環型eコマースショッピングシステム「LOOP」プロジェクトを発表した。

Photo:2020/1/24付け日本食糧新聞より( https://news.nissyoku.co.jp/news/ebata20200107061234629

上の写真は、2019年のダボス会議での記者会見の様子。ごみ問題に関して消費財メーカーに批判的な立場のGreenpeace代表、Jennifer Morgan氏(右端)も、TerraCycle社CEOのTom Szaky氏(左端)、P&G社CEO兼社長のDavid Taylor氏(左から2番目)、PepsiCo社CEOのRamon Laguart氏(中央)と登壇した。

循環経済モデルの最大の目標は、限られた化石資源の有効活用と廃プラスチックの削減だ。目標達成のための方策としてエレン・マッカーサー財団は、プラスチックパッケージのリサイクルとリユースを提唱している。

使用済みプラスチックパッケージのClosed Loop Recycling(パッケージ・ツー・パッケージ)は技術的にも社会的にもハードルが高く、膨大な再生プラスチックを受け入れる二次市場の開拓にもまだ長い時間がかかる。しかし、パッケージのリユースは、当面化石資源の消費を抑える有効な手段だ。リユースは既存技術を活用し、当バリューチェーンの企業と消費者が連携することで可能になる。

Szaky氏がまだプリンストン大学の学生であったころ「捨てるという概念を捨てよう」という理念の下に設立したのがテラサイクル社で、彼らは廃棄物の回収・管理・再生をコア事業としている。現在世界20カ国で事業展開し、P&G、ネスレ、ユニリーバ、マース・ペットケア、日本では花王やライオンといった大手消費財メーカーと提携して、廃棄物の回収やリサイクル活動を行っている。

同氏が提案する「LOOP」プロジェクトは、消費財メーカーが商品を販売してもパッケージを資産として所有し続け、消費者が中身を使用した後は「LOOP」のプラットフォームで回収、洗浄し、再び商品を詰めて販売するもの。リユースされるパッケージは5年~10年かけて減価償却するという仕組みだ。

商品とパッケージを分離する考え方は極めて独創的だ。長期にわたって使用されるパッケージの素材には、ステンレス鋼などの金属、ガラスやエンプラといった耐久性のある材料が使われる。償却が終わり、経年変化でその役割を終えたパッケージは、テラサイクルがリサイクルするという。

「LOOP」プロジェクトに賛同し参加する消費者は、会員登録をして、ネットや小売店の店頭で製品を購入する。そして使用済みパッケージを返却すると、容器代は戻ってくるようになっている。

Szaky氏は、消費財メーカーに100回リユース可能なパッケージを設計することを求めている。2019年5月から米西海岸の諸州とパリの一部地域で実証試験が始まっており、2020年は東京の他、3月にロンドン、5月にカナダ、11月にドイツ、2021年にはオーストラリアでも始まる。

「LOOP」プロジェクトの試みは、環境意識の高い消費者や消費財メーカーの支持を得て広く浸透する可能性を孕んでおり、成功すれば廃プラスチックパッケージの削減に一定の波及効果が期待できる。

「LOOP」の仕組み

【購入】Loopウェブサイトまたは、Loop パートナー小売業者のウェブサイトに登録して、リユースできるパッケージに充填された商品を注文する。

【受取】Loopのリユース専用のトートバッグに詰められた商品が宅配される。ダンボール箱や使い捨ての緩衝材は不要になる。

【利用】Loopパッケージに入った商品を利用する。

【返却】Loopの会員はパッケージの洗浄・処分は不要で、商品を最後まで使い切った後はLoopトートバッグに入れ、会員の自宅に配送業者が訪問・集荷する。

【洗浄】Loopの技術開発チームが、製品に合わせた洗浄方法を開発、安全・衛生面でも安心なリユースを可能にする。

【商品の再充填・パッケージの再利用及びリサイクル】返却・洗浄された空のパッケージに商品が再充填され、注文を受けたLoop会員の自宅に配送される。かみそり、ブラシパーツ、オムツなどのリサイクルが可能な使用済み商品は、専用容器に入れて返却され、テラサイクルがリサイクルする。

「LOOP」プロジェクトに参加するブランド

Photo:P&Gが提供するLOOP専用パッケージ。( https://www.businesswire.com/news/home/20190128005373/ja/ より)

Photo:右はハーゲンダッツのステンレス鋼の2重壁容器。( https://ideasforgood.jp/2019/07/16/loop/ より)

「Loop」のアイデアは、過去のダボス会議でテラサイクルと大手消費財メーカーの間で議論が深められたという。

既に2019年2月末時点で、P&G、Nestlé、PepsiCo、Unilever、Mars Petcare、The Clorox Company、Coca-Cola European Partners、Mondelēz International、Danoneといった日本でも有名なグローバル大手を含めた広範な業種の消費財ブランドに加え、欧州の大手リテールCarrefourとTesco、米国のWalgreenやKroger、貨物配送会社UPS とフランスの廃棄物管理会社Suezが加わっている。

ニューヨーク、パリ、ロンドン、東京等、世界の主要都市での実証テストを経て、消費者の反響が大きければ、参加を希望する消費財メーカーはさらに増えていくことが予想される。Szaky氏は、将来的にはネット通販の雄、Amazonがパートナーとして参加することを狙っているようだ。

前述のように、2020年秋には東京都の支援を得て、東京でもパッケージの耐久性や現行システム比較した環境負荷の検証実験が始まる。参画する企業は現時点で、味の素、I-ne(アイエヌイー)、イオン、エステー、大塚製薬、キッコーマン、キヤノン、キリンビール、サントリー、資生堂、P&Gジャパン、ユニ・チャーム、ロッテの13社で、テラサイクルジャパンはさらに参画企業を増やしていきたい考えだ。

各社の製品は、テラサイクルジャパンが独自で構えるオンラインプラットフォームと、日本の実証実験の小売りパートナーであるイオンリテールで販売される。

以下の写真は東京のLOOPプロジェクトに参加する各企業のプロトタイプパッケージ。昨年12月のエコプロ2019展で参考出品された。

Photo:配送・回収用のトートバッグ ( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

Photo:エステーの”消臭力”( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

Photo:ロッテの”キシリトール”( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

Photo:キャノンのプリンター純正インク( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

Photo:資生堂の”AQUA LABEL”( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

Photo:味の素の調味料容器( https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1195100_1501.html より)

非常に斬新で挑戦的な試みではあるが、これはあくまで先進国の、環境意識が高く購買人口が多く住む地域で有意義な結果が出るプロジェクトだと筆者は思っている。実証実験もアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、日本のそれも大都市圏で行う計画だ。それでも、モノが溢れ、一般廃棄物の排出が膨大な量にのぼる大都市圏で、プラスチックごみが目に見えて削減されれば、大きな波及効果をもたらすだろう。

おわりに

産業社会が成立するまでの日本社会はモノが乏しく、大切に使うリユースの時代であった。産業社会の出現により大量消費時代が到来し、リユースやリサイクルは忘れ去られていた。

ところが、以前より警告されていた地下資源の枯渇ではなく、大量生産された商品と使用後に大量に排出される廃棄物を、今や地球が受け入れることができなくなり、このままでは地球を健全な状態で次世代に引き継ぐことができない状況に陥っている。

まずなすべきことは、廃棄物を削減すること、そして回収された廃棄物は有用な資源として活用することが、今すぐにでも求められている。小さなリサイクル企業が世界の大手消費財メーカーと連携して、地球規模の大きな課題に挑戦するLOOPプロジェクトは注目に値する。(森 泰正 記)

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