はじめに
2020年1月23日、中国当局が新型コロナウイルスの流行により突然武漢市(中国・湖北省)を封鎖してから半年以上が過ぎた。その後、この新型コロナウイルスは世界中に拡大し、いまだ衰えるどころか世界中の人々の生命と生活を脅かし、経済活動に深刻な影響を及ぼしている。
コロナは一旦収束しても、ワクチンなどで人類が十分な集団免疫を持つには少なくとも数年はかかるといわれている。我々は、これから好むと好まざるとにかかわらず「ウィズ・コロナ」というべき時代を生きることになる。
先のことを予測するのは現段階では困難だが、間違いないのは、新型コロナウイルスがパッケージング業界にも大きな影響を与えるということだ。今回はアメリカの代表的なパッケージング情報誌である「Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)」の2020年上半期の記事から、筆者が興味を抱いた記事をご紹介する。
パウチの成長が加速(PS誌:1月14日発行)
2020年の新年は穏やかに明けた。2019年はアメリカでも、プラ廃棄物削減の動きがナショナルブランドやプライベートブランドのパッケージにも広まり、省資源で軽量の軟包装に切り替える動きが増えている。
アメリカの代表的な包装機販売代理店ALLIEDFLEX Technologies社のDennis Calamusa社長兼CEOは、PS誌への寄稿で、ゲームチェンジャーとして使用済みプラスチックパウチの店頭回収のリサイクルシステム(Store-Drop-Offプログラム)がアメリカ社会に定着してきたことを、その一因に挙げている。
日本とは異なり、アメリカでは資源ごみの段ボール、アルミ缶、スチール缶、ガラス瓶、硬質プラスチック容器(PET、PP、PE)は混合回収されたのちに分別・リサイクルされている。この場合、回収された資源ごみは、各地の分別センターで素材ごとに分別、圧縮、減容化され、500~700kg重量のベールで再生業者に転売される。
しかし、薄膜のプラスチックフィルム(ラップ、収縮フィルム、レジ袋、青果物・パンの袋、新聞・クリーニング袋、ジッパー付き保存袋、通販のエアー緩衝材など)は、分別センターの最初の工程である「ディスクスクリーン」のロールに巻き付いて頻繁にラインを止めてしまうため、各自治体はリサイクル禁忌品として回収していない。
新型コロナウイルスの蔓延により、この規制はより厳格化されているようだ。行き場のないプラスチックフィルムは、アメリカでは殆どが埋め立て廃棄されており(欧州では日本と同様、焼却処理される)、アメリカのプラスチック廃棄物管理は更に厳しい状況に置かれている。
アメリカの環境NGO法人Greenblueが運営するプロジェクト「Sustainable Packaging Coalition:持続可能パッケージ連合(以下SPC)」が展開する「Store-Drop-Off」プログラムでは、使用済みパウチに「リサイクル可能」と表記された「How2Recycle」ラベルが印刷されておれば、参加しているスーパーやドラッグストアなどに設置された回収ボックスで、回収・再資源化される仕組みになっている。
この取り組みは2012年にアメリカとカナダで始まり、前述のように自治体が受け入れを拒否しているフィルムやパウチの中でも、最も生産量が多いPE系の包装材料に限ればリサイクルの輪が着実に広がっている。
最近ではPE単体フィルムだけでなく、ナイロンやEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)と共押出加工やラミネート加工をされた、高強度でガスバリア性の高いPE系多層パウチも回収されるようになった。異種素材で構成されたフィルムやパウチが持ち込まれても、効果的な相溶化剤が開発されたおかげで、二次市場で問題が発生せず再資源化率が飛躍的に改善されている。
一方、新型コロナウイルスの拡大でマイバッグに代わり、スーパーで働く従業員の感染防止のために再びPE製レジ袋が脚光を浴び、保護・安全というパッケージ本来の役割を果たしている。これを廃棄物が増えると問題視している人たちもいるが、今やアメリカでレジ袋は使い捨て・海洋プラスチックの代名詞ではない。
丈夫で使い勝手が良く、安全・衛生面に優れ、使用後はスーパーで回収され、リサイクルされている。こうした努力や実態を確り取材もせずに、反プラスチックキャンペーンを張っている一部のマスメディアこそ問題だ。
SPC認証を取得したパッケージは、「How2Recycle」ラベルのガイダンスに従って水洗・乾燥し、店舗に持ち込めば確りリサイクルされる。発足時は12社であった参加企業も2019年末には200社を超え、全米3万以上の店舗でこのプログラムを推進している。賛助会員として加盟しているコンバーター、フィルムメーカー、PEメーカーも65社に上る。
「How2Recycle」ラベルに「Store Drop-off Recycle」の表示がされているポリエチレン袋やパウチは、このプログラムに参加している店舗に持ち込めばリサイクルされる。レジ袋は上質な再生資源である。回収、再生されたPEの主な二次用途は、建築材料、ゴミ袋、通販の緩衝材、そしてレジ袋だ。
米Method社のPower Dish洗剤パウチは、PE系モノマテリアルパウチの草分け的な存在で2017年に発売された。包材供給は軟包装世界最大手のAmcor社だ。このモノマテリアルパウチにはPCR (Post-Consumer Recycled)のPEが20%添加されている。最近は中身が見える透明窓のついたパウチも増え、食品やペットフードにも拡大している。
リサイクル後進国と揶揄されてきたアメリカでも、環境意識の高いミレニアル世代を中心に廃棄物削減のうねりが起き始めている。
モノマテリアルパウチは、現時点では使用後水洗、乾燥させることが義務づけられており、きれいに洗浄することが難しいウェット食品(ベビーフードやアップルソース、スープなど)は、消費財メーカーが再生業者のTerraCycle社などと提携して、独自に回収するリサイクルの流れを構築している。
モノマテリアル包材だといっても、二次市場を形成してリサイクルの流れを継続的に拡げていかなければ、最終的には埋立廃棄されてしまう。人類にとって有用なプラスチックは、とことん使い切って、少しでも廃棄を減らす必要がある。このことを消費財メーカーやリテールは理解し、若い消費者層も巻き込んだリサイクル活動がアメリカで拡がり始めたのである。
植物由来、水溶性の断熱緩衝材は環境に優しいか?(PS誌:1月31日発行)
Green Cell断熱発泡体は、アメリカ・ミシガン州のKTM Industries社が生産、販売している。従来の化石由来のプラスチック断熱発泡体と比較すると、生産時の消費エネルギーを70%、温室効果ガスを80%削減する、環境に優しい梱包資材だという。
素材はコーンスターチ由来の生分解性プラスチックで、この発泡体は断熱と緩衝効果があり、ネット通販の包装資材として重要な役割を果たす。
更に、この緩衝材の大きな特長は水溶性であることで、化石由来の包装材料と異なり廃棄が便利だ。わざわざリサイクルする必要もない。排水口に流しても詰まることはなく、汚水処理システムや浄水センターでも何ら影響を及ぼさないという。
一方、イギリスのリテール最大手のTESCO社は、水溶性プラスチックについて「完全に水に溶解するわけではなく、マイクロプラスチックとして拡散、環境破壊に繋がるリスクがある」として、昨年末で使用を止めた。
生分解性プラスチックは、酸化分解型プラスチックがマイクロプラスチックの原因になっていることが問題視され、EUでは使用禁止になった。バイオ系の生分解性プラスチックも、温度管理が確りしている産業用コンポスト設備ではともかく、ホームコンポスターでは時間をかけてもなかなか堆肥化せず、生ごみや段ボールには到底敵わない。
こういうこともあり、欧米では生分解性プラスチックの関心は薄れてきている。まだ価格も高く、供給力も限定的で、現状では流通業界に普及するのは難しいだろう。
2020年に注目される5つのトレンド(PS誌:2月14日発行)
ニューヨークを拠点に活動する広告代理店OffWhite社のプリンシパル兼クリエイティブ・ディレクターのJosh White氏が、PS誌の2/14号に「2020年に注目されるパッケージデザイン」のタイトルで寄稿している。パッケージ専門家にはない、デザイナー独自の視点が興味深い。
1. エコで可食性のあるパッケージは成長するか?
2020年は、廃棄物を出さないパッケージや可食性のラップフィルムが注目を集めるだろう。大豆由来のインキや米由来のパッケージといった環境負荷の小さな素材コストは、(今は高いが)将来量的拡大に成功すれば安くなることが期待される。
大豆由来の色鮮やかなインキで印刷したスタンディングパウチや、バージンパルプから生産されたような美しい100%古紙のミルクカートンなど、魅力的で環境にも優しいパッケージが続々と登場している。
アイスクリームのコーンと同じように、食品とパッケージを一緒に食べることができる時代はすぐそこまで来ている。多くのハイテク企業が、ナチュラルポテトやライスペーパー、海藻、トマト由来の材料などから作られる可食パッケージの基礎研究を進めている。
2. 透明なパッケージとブランドの透明性に注目
ブランドの透明性が近年重要視されており、この傾向はパッケージにも及んでいる。多くの企業が、消費者が商品を直接自分の目で確かめることができるように、透明もしく半透明のパッケージを多用するようになった。
これまで多くのブランドが、パスタやクッキー、ビスケットをカートンで包装していたが、最近は消費者自身の目で中身が確認できる透明窓のあるパッケージが伸びている。一方、化粧品やシャンプー、ローションは、ミニマルデザインの透明パッケージに入って販売されるケースも増えてきた。
プロテインバーのトップメーカーであるシカゴの新興スナックメーカーRXBAR社(Kellogg’sグループ)は、使用している食材成分をパッケージの正面に大きいフォントで表示して、消費者が一目で健康に良い選択ができるよう工夫し、シェアを伸ばした。
3. 太字のフォントとミニマルなパッケージデザインが人気
大胆な色遣い、大きなフォント、ワンワードのブランド名と的を射たキャッチコピーが、2020年は流行し定着するだろう。消費者はミニマルで洗練されたパッケージに強く惹かれている。時間に追われて忙しい消費者が一目で製品の特長を理解できるような、力強い整然としたブランドメッセージをメーカーは好んで使うようになった。
ブランドロゴに大きなフォントを使うことは、これまでデザイン業界ではタブーとされていたが、消費者の興味を喚起してブランドのメッセージを力強く伝達できる書体として人気が出てきている。
4. 統合されたデザインで、消費者にブランドメッセージを伝える
消費者は、自らのライフスタイルや食生活に合った製品を選択する。それはブランドにとって信頼の証だ。消費者の信頼を勝ち取るベストな方法は、ターゲットとする顧客層を明確にし、パッケージングをフル活用してブランドメッセージを伝えることだ。
牧草で育てた牛の原乳を使ったオーガニック乳製品を販売するメーカーは、そのパッケージを一新して飛躍的成長を遂げた。全ての乳製品のパッケージに緑豊かな牧草のイラストを描き、牧草飼育の原乳を使っていることを強調したメッセージを採用して成功したのだ。
5. 固定観念を打破する意外性のあるデザイン
これまで冷ややかな目で見られていたパッケージデザインが、従来とは全く異なる評価を受ける。2020年は流れが変わる年になるだろう。場合によっては、小売ストアの棚に革命が起こるかもしれない。
ブランドを活性化させるために、従来の固定観念を打破し、製品カテゴリーを一新するようなパッケージデザインを、今年はより多く目にすることになるだろう。(森 泰正記)
[参考記事]
How2Recycle Program Celebrates 200 Members
https://how2recycle.info/news/2019/how2recycle-program-celebrates-200-members
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