はじめに
前回はスタンディングパウチの歴史と採用事例をご紹介した。
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「スタンディングパウチ」について考えてみる(前編)その歴史とアメリカでの発展
市場が拡がりを見せる一方で、廃棄物問題からシングルユースのプラスチック・パッケージを忌避する声も高まっている。こうした苦境を克服し、新市場を開発する新技術への挑戦も活発だ。
シングルユース・プラスチックが抱える課題
UNEP(国連環境計画)の「Single Use Plastics 2018」によれば、世界のプラスチック生産量は世界で4.5億トン、うちパッケージは全体の35%を占めるという。パッケージの機能は中身を保護し、消費者の手に渡るまで品質や安全性を確保することにある。つまり使われるまでは製品と一体になっているが、使用後はたちまち不要となり、ゴミになる。
National Geographic誌は、建材用のプラスチックは廃棄されるまで35年間その役割を果たし、車両用のプラスチックは平均で13年、電気製品でも平均8年の寿命があるが、パッケージは製品を包装して僅か6か月後にはゴミになると指摘する。
確かにパッケージはその生産量と時間軸を掛け合わせると、他の分野のプラスチック製品とは比較にならないほど膨大な量になる。すなわち、シングルユース・プラスチックとは今大きな問題となっているストローやカップだけのことではなく、中身を保護する役割を終えた全てのパッケージのことも指している。
廃プラスチック・パッケージを再生可能資源として、その有効活用と適切な廃棄物管理を行うことは世界共通の大きな課題だ。軟包装は、異なる機能を持つプラスチックフィルムを複合して、軽量、薄膜でも製品の品質保持や保護に優れた機能を発揮するが、その裏返しで使用後の再生、再利用は極めて困難だ。
また、米国の再生資源分別センター(MRF)は、元々軟包装フィルムを分別する設計にはなっていないため、自治体の収集でも再生資源として回収されていない。日本と異なり、米国では焼却か埋立てするしか処理方法がないのが現状だ。
パッケージの中でも化石資源や水資源の消費をミニマイズし、輸送費や廃棄物を削減する切り札として順調に成長してきた軟包装が、ここにきて批判の矢面に立たされている。スタンディングパウチも決して例外ではない。
リサイクルとストロー:批判に曝されるスタンディングパウチ
プラスチック・パッケージで今一番悩んでいるのはKraft-Heinz社だろう。アメリカの小学生が必ずランチボックスに入れていくというほどの人気の同社のジュースパウチ「CapriSun」が、リサイクルとストローという2つの課題を抱えて苦しんでいる。
CapriSunは、消費者の砂糖離れで一時期低迷したが、Kraft-Heinzは砂糖無添加の100%天然ジュースやオーガニックジュースを投入して売上は回復基調にある。2014年には合成保存料無添加に転換したため、カビが発生するという大クレームもあったが、ホット充填プロセスの改善やパウチの底をアルミ構成フィルムから透明バリアフィルムに替え、視認性を持たせるなどの対策も採り入れ販売を維持してきた。
また、米国の先進的リサイクラーTerraCycle社と提携して使用済みCapriSunのパウチを回収し、CapriSunロゴ入りトートバッグに再生する事業も共同で始めた。
こうして数々の苦難を乗り越えてきたKraft-Heinzだが、今回はプラスチックストローとアルミ構成のラミネートパウチのリサイクル化という2つの課題解決に直面している。子供向け商品でコストが抑えられる中、今後Kraft-Heinzがどのようなパウチ改革を行うのか注目したい。
また、スタンディングパウチではないが、外食チェーンなどで大量に配られている同社のケチャップやマスタードの小袋も、リサイクルができないパッケージとして、環境NGOの批判の的となっている。
スタンディングパウチをリサイクル可能に
こうした中、素材メーカー、コンバーター、フィルムメーカーが消費財メーカーやリテールと連携して生み出した、再生可能なパウチ(含むスタンディングパウチ)をリサイクルする取組みが、2019年の世界軟包装会議で紹介された。Kellogg’sの人気のグラノーラスナック「Bear Naked」のスタンディングパウチだ。
昨年まではPETフィルムに裏印刷してPEフィルムとラミネートされていたが、リサイクル可能なパウチへの転換を目指すKellogg’sが、素材メーカーダウ・ケミカル、多層フィルムメーカーBerry Global社と共同でこのパウチを創り出した。
前述したように、米国ではプラスチックフィルムは、自治体が混合回収する資源ごみとして除外されている。代わりにこのように多くのリテール店舗で回収されている。
回収されるプラスチックフィルムは、上図にあるように、レジ袋、クリーニング袋、青果物やパンの包装、ジッパー付きの食品保存袋、ネット通販に使われる段ボールの気泡緩衝材、PETボトルや缶の収縮フィルムや食品ラップなどだ。因みに、日本ではプラスチックフィルムは他のプラスチック製品と一緒に回収、焼却され、一部はごみ発電や固形廃棄物燃料として有効活用されている。
米国ではこれまで、使用済み軟包装の大半が埋め立て廃棄されてきたが、企業連携のこうした地道な努力で、まだ大海の一滴のような存在ではあるが、スーパーやデパート、ドラッグストアのパウチやバッグ回収boxに投入すれば、回収されリサイクルされるようになってきた。
「Bear Naked」のパウチはPE単体ではないのだが、ダウ・ケミカルが開発した相溶化剤の効果で、PEとバリア樹脂のEVOHを混合してもブツやピンホールが発生しないという。実際に一般のPEフィルムと「Bear Naked」のパウチがリサイクル工程で混合されても全く影響がないことが、第3者機関で認証されている。こうして回収されたPE系の単層、多層フィルムは、ゴミ袋に再生されたり、木粉コンパウンドの強化材としてベンチ、デッキ、サイディングなどに再利用されている。
ダウ・ケミカルはこの開発とリサイクルの仕組み作りに5年をかけた。「Bear Naked」のパウチの他にも既に多くの採用事例がある。米軟包装協会の2019年度の優秀パッケージング賞を獲得したHarney & Sons’社の高級紅茶のスタンディングパウチもその中の一つだ。
またこのリサイクル可能なスタンディングパウチの先駆けとなったのは、P&G傘下のSeventh Generation社の食器洗剤用パウチだ。同社は7世代先の子供たちのために地球に優しい製品開発を企業理念としている、先進的ホームケア製品企業だ。
おわりに
米国では今後、こうしたリサイクル可能なPE系の多層高バリアのスタンディングパウチが次々市場に投入される予感がする。次の機会に、その進捗状況を報告したい。(森 泰正記)
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