「ダウ 2019年度パッケージング イノベーション賞」に、日本勢が5社入賞の快挙!
はじめに
2019年のノーベル化学賞を受賞された旭化成の吉野彰博士に、心からお祝い申し上げます。一方パッケージングの世界でも、世界で最も価値あるパッケージング賞の一つと高い評価を受けている「2019年度パッケージング イノベーション賞(Dow Packaging Innovation Awards 2019)」で、日本企業5社が最優秀賞である「ダイヤモンド賞」と「金賞」をそれぞれ受賞した。
ダウ賞は、伝統あるデュポン賞を、ダウ、デュポン両社の合併により引継がれたもので今年で31年目となるが、これだけ多くの日本企業が受賞したのは史上初の快挙だ。
ダウ賞の審査基準は、以下の3点だ。
1) 革新的技術であること
2) 環境負荷を軽減する技術であること
3) パッケージング市場の成長に寄与する技術であること
ところで3番目の応募条件の中には、「過去3年以内にコマーシャル化されていること」というものがある。革新的で目を引くパッケージは多く存在するが、消費財パッケージはFMCG (Fast Moving Consumer Goods) とも言われるように盛衰が早く、日本でも欧米諸国でも、新製品で一年後に残るものは10%もないと言われている。
過去には、受賞が発表された時点で既に終版になっていたという笑えない事例もあり、この条件が加えられたと聞いている。コマーシャル化され、消費者の共感を得て販売が増加している、あるいは今後大いに飛躍する可能性がある製品でなければ、どんな優れたパッケージであっても受賞するのは困難だ。
本稿では受賞パッケージの特長を紹介しながら、世界のパッケージングの主要トレンドを追ってみたい。
ダイヤモンド賞を受賞した大日本印刷
最高の栄誉であるダイヤモンド賞を受賞したのは、日本の大日本印刷の「Complex Bottle」だ。このパッケージは白瀧酒造の人気の純米吟醸酒「上善如水」に採用されている。
「Complex」の名の通り、ブロー成形される前のPETプリフォームに、酸素バリア性のあるポリオレフィン多層フィルムを装着し、ブロー成型時の熱と圧力で、ボトル全体とフィルムを接着剤なしで完全密着している。このため金型に施された繊細なパターンを忠実にボトル表面に再現することができ、プレミアム感のあるデザインが可能になる。
また、写真のように白色フィルムを使用して遮光性を高めているので、光に敏感な日本酒などの製品には最適だ。使用後の空ボトルは外装フィルムを簡単に剥がして、PETボトルのリサイクルストリームで回収、リサイクルができる。
上善如水のボトルに加え、ダウ賞には今回、新潟薬科大や地元企業とのコラボ研究で試験販売中の生酒「AWANAMA」も出品された。
大日本印刷が得意とするPETボトルの無菌充填システムで生酒を充填、超高圧処理により、酵母などの微生物を不活性化させるHPP*1という技術を使って熱処理しない生酒を常温流通させるものだ。生酒の輸出ができるようになるので、日本食が人気の海外で販売が期待できる。
*1:HPP (High Pressure Process)については、こちらの「米国で今注目の低温・高圧加工のコールドプレスジュースと無菌紙パックの急成長」を参照願いたい。
▼HPP装置
米国の若者の間では「On the Go」の食品・飲料パッケージに人気がある。「Complex Bottle」もパーティやスポーツ観戦でのワインやクラフトビールのパッケージとして、海外市場でも評価を得られるのではなかろうか。
米国では熱処理をしないHPP殺菌がレトルト殺菌に代わる技術として注目を集めている。加熱殺菌のように食材の味、香り、栄養素を壊すことがなく、食感も良いので、コールドプレスジュースや惣菜、生肉や魚介類の鮮度保持包装に採用が広まってきている。HPP処理を受託するコントラクトパッカーも全米にネットワークを整備、HPP装置メーカーも生産・供給体制を強化・拡大している。(北米ではAvure Technologies社、Hiperbaric社は世界展開している。日本では神戸製鋼が製造販売している )
今回のダウ賞の審査員(日本人は不在)は、このボトルの潜在的市場性の高さと、日本独自のデザインの新しさを高く評価したのであろう。大日本印刷がこのパッケージに敢えて「Complex Bottle」と英語名をつけたのも頷ける。今後の同社のマーケティングの成果を期待したい。
金賞を獲得した4社
気泡緩衝シート「プチプチ」で有名な川上産業は、プチプチと浮世絵を融合させた「おもてなし」ギフトパッケージ「浮世絵プチプチ」で金賞を受賞した。ギフトを受け取ったときに驚きと感動を生み出すというのが受賞理由だ。
eコマースが世界中に広まり、梱包資材の段ボールボックス需要が増加し、輸送する商品を保護するために様々な緩衝材が使用されている。プラスチック気泡シートもその一つだ。緩衝材の歴史を紐解くと、現代では美術品として価値がある浮世絵が、その昔は海外に陶磁器などを輸出する際に緩衝材として使われ、西洋の人々を驚かし、ジャポニズムブームを巻き起こした。
川上産業のデザイナーは江戸時代に緩衝材としても使われていた浮世絵と、現代の緩衝材プチプチを融合して、当時の驚きと感動を蘇らせる「浮世絵プチプチ」を誕生させたいう。eコマースの時代になっても、いやむしろeコマースの時代であるからこそ、意匠性に優れるパッケージが求められるという証左であろう。
明治の「ザ・チョコレート 6COLLECTIONSアソートパッケージ」は、6種類のフレーバーのチョコバーの詰め合わせで、それぞれが小さなコンパートメントに配されて、片手で簡単に取り出せるように工夫されている。
チョコレートを包むカートンは「ザ・チョコレート」の各々のイメージカラーを使い分けたカラフルな色彩で、パッケージを開いた瞬間のサプライズを演出する。6種類のチョコレートの成分や特長を示すレーダーチャートが印刷され、楽しみながらテイスティングができる。
タキロンシーアイは、プラスチック袋の開閉を「音とタッチ」で感じることができる革新的なジッパーテープを開発した。一般的なジッパーと差別化するために、独自のプレミア感を演出するこのセンサリージッパーは、消費者に音とタッチで確実に袋が密封されたことを伝え、商品の顧客満足度を向上させ、軟包装の機能を更に高めることが期待される。
デュポン帝人フィルムは、再生PET樹脂を高度な二軸延伸PETフィルムにアップサイクルすることが可能なLuxCR解重合プロセスを開発した。
この技術は、メカニカルリサイクルプロセスで樹脂内部に残っている汚染物質を完全に除去した再生PETフレークを解重合し、バージンモノマーと化学的に区別がつかないBHET(ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート)モノマーに戻し、再びポリマーに再重合して、食品包装からラベル、IDカードに至るまで、高機能の二軸延伸PETフィルムに転換する画期的なアップサイクル技術だ。
メカニカルリサイクルの再生PETは、循環経済で引き続き重要な役割を果たしていくが、メルトワークが何度も繰り返されることにより再生品の物理的、機械的強度は徐々に低下していく。また高温殺菌の食品用途においては、食品との直接接触が制限されるケースもある。こうした問題は、再生PETをモノマーユニットに解重合することで解決される。
おわりに
米国で日本の独自技術が高く評価されたことは非常に喜ばしい。これまでガラパゴス技術と自らを揶揄してきた日本のパッケージング技術は、実は今でも世界で高い信頼と尊敬を集めている。日本のパッケージング業界は、もう少し勇気をもって世界に挑んでほしい。そして今回受賞された5社におかれては、これを機に海外のマーケティングで大きな成功を収められることを祈念する。
次回は、今回同時に受賞した主な海外のパッケージング技術をご紹介する。(森 泰正記)
▼後編はこちら
「ダウ 2019年度パッケージング イノベーション賞」で評価された海外のパッケージ
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